ゴキブリ会社 特別連続小説 「かたぎり まい」


カタギリマイ

 すらりと短く太い足にできものがいっぱいのお尻、大きく膨らんだお臍、短い首が支えるふくよかな顔
大きな目におおきな赤鼻、ぷるんとした唇。

彼女はけして美人ではなかったが目が二つ、鼻一つ、口一つと各パーツは一般人と同じように適切な場所に配置されており
個々のパーツはきちんと整っていたのだ。正しいものをあわせるとそれなりに合うはずだが、どこかで計算が狂ったのか
彼女の場合はなんとも形容しがたいものであった。しかしそんな容姿とはうらはらに彼女の名前は「片桐 舞」とかわいらしい
名前である。

地球のどこかのある村でホットケとハタケという二人の男女がいた。りりしい姿はまるでロドリゴのようで丹精な顔立ちの仲にはやさしさと強さを兼ね備えているとは思えないような顔をもつ男、蒼い美しい瞳にそれを引き立たせるような白色が周りを覆いそのすぐ上を長くつやのよいまつげがすらりと伸びている。鼻筋はきちんと通っており、唇は朝摘んださくらんぼとは考えられないような女。

-------------この二人から「片桐 舞」が誕生した。元禄14年 冬のことであった。

舞は美しくない乙女期をこの村ですごし今は15歳年下の妹「ヤイ」という幼稚園児と同棲している。
住所は明らかではないがイスタンブールあたりで暮らしているという。

「コナン・ドイルや江戸川乱歩の世界っていいな。」
舞は今現在、推理小説にはまっているらしい。
彼女の癖はいっぱいあるがその一つ『あこがれたらそれを実践してしまう』症候群がどうやら発症したみたいである。
「おねーちゃん、ヤイもエドガー・アランポォーが好きー!だけど、プラトンやソクラテスのイデア論や形而上学も好きなのよね」
幼稚園なのにずいぶん生意気なヤイであるが彼女も姉と同じ癖を持っていた。そうさきほどご紹介した
『あこがれたらそれを実践してしまう』症候群である。

「ほうぅ!じゃしかたがないなヤイは・・いいよ!じゃ探偵ごっこしようか!」
舞はかわいい妹のためそして自分のため、さっそく探偵事務所を設立した。現在流行りの一円起業である。
事務所の所在地は東京都都庁横スグトナリ 探偵所の名は明智小五郎探偵事務所。
事務所のドアに『不倫・浮気・盗聴・なんでも調査します』と看板を掲げ、さっそく探偵ごっこは始まった。

探偵事務所設立から・・・・数日後、学生風の一人の男がこの探偵事務所に訪れた。一人目のお客である。
事務所のドアをかったるそうにあけ、入るなりこう言った。
「ここ・・・なんでも調査してくれるんですよね・・わたしはそれほど持ち合わせがないのですが・・」

ドアの前で突っ立ったままいきなりしゃべりだす男にマイは簡易椅子を持ち出してきて座るよう勧めた。
男は背負っていたリュックをドスンと床に置いたあと椅子に腰をおろした。
そしてリュックの上の方のチャックをあけてそこから一枚の写真を取り出し、マイの前に提示した。
「これについて調べていただきたいのです」

なんとも美しい宝石の写真であった。
男はその写真についてこう説明した。

「このブルーダイヤ(注)は数年前ラスベガスであるバイヤーから手に入れたもので、その日から奇怪な事件が自分の身の回りに
起こっている。一度手放そうと思ったがなにしろ1カラットもするブルーダイヤ。同時多発テロ以降値段が高騰していることも
ありなかなか買い手が見つからないのだ。仕方なく今はスイス銀行に預けているが、今でもまだ奇怪な事件はあとをたたない。
・・・・・・・このダイヤと奇怪事件の関係を調べてほしい。・・・・」

男は写真をマイの方へさらに近づけ、こう話を続けた。

「その奇怪事件とはね、怪盗ルパンやシャーロック・ホームズにできてるようなクラシカルな事件じゃないんだよ。
このブルーダイヤを手にしてから、妹が病気になったり、大事にしているハインツ・ヴェルナー氏のマイセン・アラビアン・ナイトの
絵皿が割れたり、土地の値段が急落したり、株の信用取引で失敗したり・・・そうそうしゃれかもしれないけどこの先物取引は
たしかブルーダイヤならぬ赤いダイヤ(注)さ。・・・とまぁそのほかにもいろいろあるが・・とにかくいいことは一つもなかった。
なかでも父があんなに元気だったのに急死したこと。・・・ブルーダイヤの呪いとしか思えない。」

事務所の空気がいっぺんに重くなったのをひしひしと感じながらマイは男の話を一通り聞き終えたあといくつかの質問を
した。

「だいたいの御話はわかりました。あなたとブルーダイヤの因果関係について調べたらいいのですね?
でも・・・その怪奇事件はたまたま偶然ということも考えられるのでは?わたしにはダイヤに呪いがあるなんて
考えられませんねぇ・・・でもまぁ、一応調査をしてみますが・・あっ!ブルーダイヤについて少し教えていただけませんか?」

マイはそう言って男の方へ顔を上げた。


「ああ・・わたしのもっているブルーダイヤは1カラット(注)もあるんだ。
相当の値がするよ。希少価値があるからね。なにしろそこらへんに出回っているトリートメントとは訳が違う。
ナチュラルブルーダイヤなんだ。・・・・・」

男は少し自慢気にそう話すと腕にしていた時計を見てすぐに立ち上がった。

「では。参考にこの写真はおいて行きます。頼みましたよ。・・・・あっ!そうそう料金は後払いってことで
調査が完了したらこちらの連絡先までお願いしますよ。それじゃ」

そう言うと男は急ぐように再びリュックを背負って去っていった。
マイの目にはこの男は実に不気味に映っていた。


つづく


(注)ブルーダイヤ 青いダイヤ カラーダイヤモンドの一つ。

(注)赤いダイヤ この場合は主に北海道で採れるあずきのこと。あずきは季節や気候によって高騰するため取引によく使われる
  そのため『赤いダイヤ』と呼ばれる。

(注)市場に出回っているブルーダイヤはほとんどがトリートメントされたものでファンシーものはかなり高い値がつく。
  また1カラットのブルーダイヤは見られない。



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